医学教育学会発表原稿,スライド(2002年7月)

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ただいまから“「心周期:はじめの一歩」を対象としたrandomized, double-blind, control study: evidence-based education”について発表をします.


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現在,医学の学習者が身につけなくてはならない医学知識は年々増加しています.したがって,限られた時間で学習するためには従来よりも分かりやすく,教育効率の良い教材が求められていることは言うまでもありません.しかし,教育効率の高い教材の構成,作成方法などに関する検討は少ないのが現状です.

そこで,私達生理学教育法シェアリンググループは,幼児教育におけるGlenn Doman氏らの,情報を明確,正確,別々に提示するという提示に従って「心周期:はじめの一歩」という教材を製作して昨年の本大会で発表しました.

今回は,「心周期:はじめの一歩」の教育効率を検討するために,従来の教材とrandomized, double-blind, control studyで比較検討することにしました.


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対象は昭和大学1年生26名で,これらの学生はカリキュラム上循環生理を勉強していないことから,循環生理に関しては初学者といえます. まず,これらの学生を,従来の教材のグループと「心周期:はじめの一歩」のグループに無作為振り分けをしました.そして,本研究のプロトコール,目的などを説明し書面によるinformed consentを得た後,それぞれ教材を配布したのち45分間自習をしてもらいました.教材を配布する際,出展に関してはブラインドをしておきました.従来の教材というのはこのように心周期の圧変動グラフが示してありそれに関する説明がB5用紙1枚程度にまとめられたもので,説明文の長さ,使用している単語についても一般的な生理学の教科書といえます.「心周期:はじめの一歩」の特徴としては,心房圧,心室圧,動脈圧をこのように水柱式血圧計を用いて表現することでイメージが捕らえやすく,より情報を明確にすることを目指しました.また,心周期のステージごとに別々に図を提示することで分かりやすさを追求しました.45分間の自習の後,テストを行いました.

テストでは「駆出期には,心室内圧は心房内圧に比べて【 高い / 低い 】」のように,基本的な最重要情報に関する2者択一の問題を30題出しました. その後アンケートを行いました.さらに,自分が勉強しなかったほうの教材も配布し,アンケートの最後の質問に答えてもらいました. なお,テストの採点と,アンケートの集計が終わるまでは採点者にはグループ分けをブラインドしておきました.



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結果1です.まず,学習到達度に関するグラフをご覧ください.はじめの一歩グループではテスト30問中27問以上つまり,9割以上正解した学生が全員でしたが,従来のグループでは9割以上の学生もいましたが,それ以上に9割よりも低い点数の人が多いという結果がでました.ここで,はじめの一歩のグループに最初から学習能力が高い学生が集まったのではないかという疑問が沸くかと思います.そこで,期末テストの点数と序列に関するグラフをご覧ください.ごらんいただきますと,両グループとも同じような分布になったということからその可能性は否定されます.


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次に正解率,全問正解した学生の数,誤答率についてもそれぞれ比較検討してみました.全てに有意差がでたのですが,特に,全問正解した学生の数は,はじめの一歩が従来の3倍多く,誤答率では従来のほうがはじめの一歩よりも6倍多いという結果がでました.


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限られた時間の中で学習する際,教材の情報量が多いと,学習到達度にとって不利に働くという可能性があります.今回の研究でも,従来の教材のほうがはじめの一歩よりも情報量が多く,そのために学習到達度に不利に働いた可能性があります.そこで,これは勉強時間に関するアンケートの結果ですが,従来のグループでは,効率よく勉強できたが時間が足りなかったと答えた学生が0人であり,自分なりに情報を加工する必要があったと答えた学生が13名中8名であったことから,情報量の多さが学習到達度に不利に働いたという可能性は否定的であると考えられます.


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同僚,後輩にはどちらの教材を薦めますか?との質問に対し,従来のグループ,はじめの一歩グループともに13名中11名が「心周期:はじめの一歩」を薦めると答えました.


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学習到達度には,教材の教育効率だけではなく,他の因子も影響します.しかし,今回の研究デザインより,他の因子が主因であった可能性は否定的であり,学習効率の差は,両教材の教育効率に関する差であると思われます.



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結論といたしましては「心周期:はじめの一歩」のように,重要情報を抽出し,明確,別々に提示した教材は,初学者にとって教育効率が高いだけではなく,初学者に支持される教材であるとのevidenceが得られました.


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研究参加者はごらんの通りです. 御清聴ありがとうございました.

質問:テストの問題も「はじめの一歩」の製作者が作ったと思われるが,本当の意味での「無作為」試験ではないのではないか?当然,「はじめの一歩グループ」に有利ではなかったのか?

解答:出した問題は,例の通り,極めて基本的な最重要知識だった.どの教材にも必ず提示されている情報であり,出題者の「趣味」などの偏りがあったとは思えない.

質問:期末テストの平均,序列で差がなかったのはなぜか?良い教材で勉強したのなら,差がでても良いのでは?
解答:今回の研究は春休みに施行され,期末テストの成績は前年度の結果である.

質問:ある意味,ショッキングな研究である.今までの生理学の教科書をすべて否定するのか?

解答:決してそうではない.われわれは「はじめの一歩」の命名の通り,初学者をスムーズに導入する教材を狙っている.基本的な最重要知識を効率よく身につけた後は従来の教材で知識を深く広めることが可能と思っている.

スナップ写真!


発表中の丸山氏.凛々しく,堂々として,わかりやすい発表であった(non-blinded biased opinion!).


発表も終わり,質問にも全部答えられた充実感!


向かって右側から発表担当の丸山直樹氏(昭和大学医学部5年),応援に来てくれた浜松医科大学6年舛方葉子女史,生理学教育法シェアリンググループコーディネータの渋谷まさと