電解質と体液/pH調節関連の用語定義/重炭酸緩衝系と肺とによるpH調節
Henderson-Hasselbalchの式
式
重炭酸緩衝系の平衡式(H++HCO3-←→H2CO3←→H2O+CO2)から,
pH=6.1+log (HCO3-/H2CO3)
が導かれます.すなわち,血しょうのpHは重炭酸イオン(HCO3-)の重炭酸(H2CO3)に対する比で決まります.また,H2CO3の濃度(mEq/L)はCO2濃度(mm Hg)×0.03と等しいので,上式は
pH=6.1+log(HCO3-/CO2×0.03)
=7.62+log(HCO3-/CO2)
とも記載できます.
式の意義
血しょうのpHは重炭酸イオン(HCO3-)濃度のCO2濃度に対する比で決まる,とのことは,平衡式をみるだけで理解できることです.しかし,Henderson-Hasselbalchの式により,実際の数値を代入することが可能です.運動などで数値がどのように変化するかを検討することにより,平衡式の理解が深まるであろう.
安静時 | 運動時 | |
---|---|---|
動脈血 | 動脈血 | |
乳酸濃度(mEq/L) | 1 | 5 |
HCO3-濃度(mEq/L) | 24 | 20 |
CO2濃度(mm Hg) | 40 | 34 |
HCO3-/CO2比 | 0.6 | 0.588 |
log(HCO3-/CO2) | -0.22 | -0.23 |
pH | 7.40 | 7.39 |
H+濃度(nEq/L) | 40 | 41 |
Doll E, et al. (Am. J. Physiol. 215:23-29, 1968)のデータを参照した.14名の健康な平均年齢24才の男性におけるデータです.運動は自転車エルゴメータで50Wで6分間,つづいて100Wで6分間,つづいて150Wで6分間運動したときのデータです.
気づいていただきたい点は...
- pHを決定するH+濃度の単位がnano (10-9)であり,乳酸濃度などの単位milli (10-3)と比較すると100万分の1である.
- はげしい運動の筋肉運動により乳酸濃度が増大すると,HCO3-が消費(安静時,24mEq/L;運動時,20mEq/L)される.しかし,換気の亢進のため,動脈血中CO2濃度が減少(安静時,40mmHg;運動時,34mmHg)し,HCO3-/CO2比は,安静時と比べて,あまり減少しない.結局,H+濃度もpHもあまり減少しない.
- 運動による乳酸濃度の増加は生存可能なH+濃度範囲(20-100nEq/L, pH:7.7-7.0)と比べて桁違い(1->5 mEq/L)に大きい.ビーカに5 mEq/Lの乳酸のみの溶液があると,そのpHは約3.5になる.この大量の酸性物質にもかかわらず,pHの変動が極小なのが上記の理由による.なお,HCO3-が消費(安静時,24mEq/L;運動時,20mEq/L)されるだけで,CO2濃度が減少しなかったら,HCO3-/CO2比は,0.6から0.5に減少してしまい,pHも7.32まで低下する.
Challenge Quiz
安静時.動脈血に比べて静脈血のpHは 低い. 同等である. 高い .これは.筋肉など各臓器が 乳酸. リン酸.CO2. 重炭酸. 重炭酸イオン を放出し.肺での排出のために動静脈間で濃度差があり.重炭酸緩衝系はこれに対して静脈内で H+ + HCO3- ← H2CO3 ← H2O + CO2. H+ + HCO3- → H2CO3 → H2O + CO2 方向へ作用しているためである.
運動により筋から乳酸が血中に放出された。血漿緩衝系がなければ、乳酸が遊離するH+はpHを 上昇.低下 させてしまう。しかし、血漿緩衝系、特に、重炭酸緩衝系の重炭酸イオンは 酸性.アルカリ性 物質であり、H+と結合することで、運動時のH+の 増大. 減少 を緩衝する。この際、重炭酸緩衝系は H+ + HCO3- ← H2CO3 ← H2O + CO2.H+ +HCO3- → H2CO3 → H2O +CO2 の方向に作用し、重炭酸イオンは 減少. 増大 する。さらに、運動時、換気が亢進することにより動脈血CO2濃度が 減少. 増大 し、この変化も(は)重炭酸緩衝系を H+ + HCO3- ← H2CO3 ← H2O + CO2.H+ + HCO3- → H2CO3 → H2O + CO2 の方向に作用させ、重炭酸イオンの緩衝作用を 助長. 阻害 する。