H+の増大とHCO3-の増大とは、呼吸性アシドーシスを示唆する。 |
最初の病態として、肺機能が低下した場合を考えてみましょう。
二酸化炭素の排出が低下して、血中の二酸化炭素(CO2)が増大します。
重炭酸緩衝系のバランスが乱されたので、「最初に起こったことを打ち消す方向」、つまりこの場合は左方向に反応が進みます。これにより二酸化炭素(CO2)が消費されるからです。左向き反応で生成されるため水素イオン (H+)が増大し重炭酸イオン(HCO3-)も増大します。
「最初に起こったことが完全に打ち消されるわけではない」のですから、二酸化炭素(CO2)が4増大すると、重炭酸緩衝系の作用により消費される二酸化炭素(CO2)は、それよりも少ないので、2としましょう。水素イオン (H+)も重炭酸イオン(HCO3-)も2生成され増大します。
最初の変化と重炭酸緩衝系の作用までをまとめると、このような新たな平衡が成り立ちます。
pHを横軸、重炭酸イオン(HCO3-)を縦軸とするグラフにおいて、水素イオン(H+)が増大することはpHが低下するので左方移動となります。重炭酸イオン(HCO3-)が増大することは上方移動となり、この状態はこのようにプロットされます。
たとえば、pH, 7.2 ; HCO3-, 28 mEq/L ; CO2, 68 mm Hgの血液検査データでは、正常値よりも水素イオン濃度が増大し、重炭酸イオンは増大しています。これは、血漿における重炭酸緩衝系の化学平衡式H+ + HCO3-←→ H2O + CO2において、左端にあるH+とHCO3-とが同じ方向に変動しており、血漿に最初に起こった変化はH+やHCO3-の変動であると思われません。血漿に最初に起こった変化はCO2増大と考えると説明がつきます。これは、肺の機能不全によってもたらされたと思われます。さらに、重炭酸緩衝系はH+ + HCO3- ← H2O + CO2の方向に化学変化が生じたと考えられます。pHの変動は呼吸性アシドーシス(による酸血症)とよばれます。
pHの変動 | H+の変動 | HCO3-の変動 | 最初に起った変化 | 重炭酸緩衝系の動き | 診断される病態 |
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低下 | 増大 | 増大 | CO2の増大 | H+ + HCO3- ← H2O + CO2 | 呼吸性アシドーシス |