心周期における圧変化

  図では、1回の心周期(心臓の収縮の終わりから次の収縮の終わりまでの期間)における主要な事象を描いている。安静時では、心拍数は1分あたり70回程度であり、心周期は約0.8秒で、そのうち、収縮期が0.3秒で拡張期が0.5秒である。大動脈、左心室そして左心房の圧変化に加え、図には心室容積、心電図と心音図(phonocardiogram)(心音の記録)が示されている。心音は聴診器で容易に聴くことができる。
 心室拡張期の後半(充満期)において,血液は正常では大静脈から連続的に心房に流入し、そのほとんどが心室に直接流入する。心房から心室へ移動する全血液量のうちわずか20%の血液が、心房収縮により能動的に心室に流入する。図の左心房圧曲線を参照すると、3つの主要な圧の上昇波、すなわち、a波、c波そしてv波の存在がはっきりとわかる。a波は心房の収縮中に観察され、それに先行して心房の脱分極が生じている(心電図P波)。心室収縮の直前に房室弁が閉鎖すると(心室圧が心房圧を上回ると)、心房圧に2番目の隆起であるc波が生じる。これは主として房室弁の心房内への張り出しのためである。心室が収縮している間も、心房には静脈からの血液の流入があるので、その期間心房圧は徐々に上昇している。この圧上昇は心房圧曲線のv波として認められる。心房圧は心室収縮末期に房室弁が開くとともに再び低下する。
 心室収縮は心電図R波のピークから開始する(QRS複合波が心室の脱分極を示していることを思い出す)。房室弁は心室の収縮の開始とともに閉鎖し、最初の心音(第I音)が生じる。この短時間の間(緊張期)(0.02〜0.03秒)肺動脈と大動脈の入り口にある動脈弁も閉じており、等容性収縮(isovolumetric contraction)―心室内圧は上昇するが、容積は変化しない―という。これは、図における心室容積曲線で見ることができる。
 動脈弁が開くと心室収縮期の駆出期(ejection phase)となる(左心室圧が大動脈圧を上回る、また、右心室圧が肺動脈圧を上回る点)。急速な駆出の時期の後、やや寛恕に心室容積が減少する(図中の心室容積曲線を参照)。急速な駆出期において、心室圧も大動脈圧も急速に上昇するが、心室収縮期の最後の4分の1程度のところでは、心室が収縮しているにもかかわらず、血液は心室から大動脈へほとんど流出しない。
 収縮末期では、心室は再分極し(心電図T波)、弛緩を開始するので心室内圧は急速に低下する。肺動脈と大動脈のより高い圧が、動脈弁(肺動脈弁と大動脈弁)を閉鎖(この際,第II音が発生)し、心室への血液の逆流を防ぐ。その後、短期間ではあるが、弛緩期における等容性弛緩(isovolumetric relaxation)が認められる。この時期心室は連続的に弛緩している(心室圧は同時に低下している)が、まだ房室弁が開いていないので心室容積は変化していない。これは心室圧が心房圧よりも低下し、僧帽弁や三尖弁が開くまでの間0.03〜0.06秒持続する。心室はその後も弛緩を続けるが、血液が心室内に流入するため、心室容積は急速に増加する。心室拡張期の約2/3のところで心房の脱分極が生じ(心電図P波)、その結果、心房は心室に血液を押し込むために収縮する。この状況は図ではっきり示されており、心房収縮に一致して心室容積に第2の上昇カーブが認められる。